「投げる」能力が著しく低下している
先日、スポーツ庁より、令和5年の4~月7全国の小学5年生約99万人と中学2年生約92万人を対象に実施した「体力、運動能力、運動習慣調査」の結果が公表されました。みなさんも小学生や中学生のとき受けた記憶があるのではないでしょうか。
【種目】
握力、上体起こし、長座体前屈、反復横とび、20mシャトルランまたは持久走(男子1500m 女子1000m)、50m走、立ち幅とび、ソフトボール投げまたはハンドボール投げ(中学生)の8項目
子どもの体力や運動能力は、1985年(昭和60年)をピークに低下傾向となり、2000年(平成12年)を過ぎた頃から問題視されるようになりました。その後、国などの取り組みによって、横ばいをキープしていましたが、コロナで生活習慣が一変したことで、低下が著しくなっていきました。
今回の調査結果について
実技テストの体力合計点は、2022年と比較して男子で回復基調にあるが、新型コロナウイルス感染症の流行以前の水準までは戻っていない。また、1週間あたりの総運動時間は2022年と比べてわずかに減少。その一方、睡眠時間8時間以上と1日のスクリーンタイムが4時間以上の割合は増加。朝食欠食の割合も増加。
結果を踏まえてのスポーツ庁の見解
運動能力について
児童生徒自身が、運動やスポーツを行うことは、楽しさや喜びを味わうことに加え、体力の向上へとつながることを実感し、生涯にわたって心身の健康を保持増進し、豊かなスポーツライフを実現する資質・能力を身に付けることができるよう、引き続き取組を進める必要がある。
運動習慣・生活習慣について
健康三原則(運動、食事、休養及び睡眠)の大切さを教える中で、改めて児童生徒に朝食摂取の状況が自身の体力に大きな影響を与えることを理解させ、スクリーンタイムについても、運動時間とスクリーンタイムのバランスに留意することが必要
新体力テストが施行された平成10年頃と令和5年度との比較
・男女ともに、上体 起こし、長座体前屈、反復横とび、20mシャトルラン、50m走がほとんどの年代で令和5年度の方が高い。
・握力とボール投げはいずれの年代でも令和5年度の方が低い結果となった。
・合計点については、男女ともいずれの年代でも令和5年度の方が高い結果となった。
合計点をみても、ほとんどの種目においても、令和5年の方が上回っています。しかし、握力とボール投げの2種目だけが下回った結果となりました。
少年野球の現場でも感じる投げる能力の低下
体力テストで行うソフトボール投げは、どんなことを調べるのでしょうか?
ソフトボール投げは、ソフトボールを決められた方向に投げ、その距離を計測する種目です。投球能力をはじめ、巧緻性(体を思い通りに巧みに動かす)・瞬発力を測定する種目になります。
「遠くまで投げる」動作は、重心、体重移動、腕や手首、ボールを握っていない腕の使い方、リリースの瞬間の力の入れ方などさまざまな動きの要素が係わってきます。
巧緻性と瞬発力を計測するにはもってこいの種目ということなんでしょう。
ボールを投げる力は能力より経験が影響し、その能力の低下は、野球離れが原因のひとつと専門家が分析しています。1965年の11歳男子のソフトボール投げは34.40m。2023年では、21.90mまで落ち込んでいます。1960年代はスポーツでは圧倒的に野球が人気。子どもたちは、公園や空き地で、野球をして遊ぶのが定番でした。「サザエさん」や「ドラえもん」でもよく見る光景ですよね!それが現代では少子化に加え、サッカーやバスケットボール、ラグビーやダンスなど、多様化しています。さらに、野球禁止の公園など、野球をして遊べる環境もどんどん無くなってきています。
ボール投げの能力が低下し続けているのは、必然といえます。
私が携わっている少年野球の現場でも、ここ数年、新入部員や体験に来る子供の「投げる、捕る」の能力が著しく低下しているなと感じます。親子でのキャッチボールや友達との野球遊びなど、以前はよく見かけた光景が最近はほとんど見かけなくなりましたが、そのような環境の変化が一因として挙げられると思います。
運動能力を伸ばすには外遊びが一番
先日こんな記事を見ました。スポーツ教室に通っている子供と通っておらず、外遊びを中心に過ごしている子供の運動能力を比較してみたら、「外遊び」の子供の方が高かったという内容です。ある大学教授の研究であり、9000人を対象に調査を行ったということなので、十分なエビデンスがあります。その理由としては、以下が挙げられるとのこと。
①スポーツ教室だと同じ動きの繰り返しとなり、さまざまな動きを経験せずに限定された
動きのみとなってしまう
②説明や順番待ちなどで、体を動かす時間そのものが減ってしまう
③できることを前提として求めると、できない子のやる気衰退へ繋がってしまう
三間(仲間・時間・空間)の減少
もうひとつ、子供を取り巻く環境にも原因が挙げられるとのこと。
それは、「三間(仲間・時間・空間)の減少」です。
①少子化や合計特殊出生率(一人の女性が子供を産む人数)が減少し、遊び相手が
減っている。
②子供同士の時間も合わせづらくなっている
③土地開発が進んで、子供の遊び場だった空き地が減少。公園はボール禁止や木登り禁止
など、様々な制限がある
この3つの「間」の減少で昔は自然と行っていた外遊びの機会が奪われているのです。
子供社会の崩壊
昔は近所のお兄ちゃん等と遊んだり接する機会が多々あり、そのお兄ちゃんに憧れて真似したりするうちに、運動能力を刺激していったということもありました。そして、自分がお兄ちゃんくらいになったときには、下の年代が憧れて真似をするというようなサイクルになっていたのです。しかし、現代はその子供社会が崩壊しています。
運動能力を高める環境づくりが必要
ここからは、個人的な見解ですが、運動能力を自然に高める環境が無くなっている今、やはりスポーツ教室などに通わざるを得ない状況は避けらないと思います。並行して複数の習い事をするとより効果的でしょうし、金銭的な負担を考えれば、定期的に種目を変えていくのもいいでしょう。家族で公園等での外遊びも積極的に行ったらいいと思います。様々な競技や種目、また遊びを経験させるような環境を意識的につくっていく必要があるのかなと思います。そういった意味では、私たちが子供の頃は恵まれていたのですね…
ライフキネティックはおススメ♪
ライフキネティックは、偏った動きではなく、様々な簡単な運動で神経を刺激するので、巧緻性を高める上でも、うってつけのトレーニングと言えると思います。
また、ライフキネティックは失敗してもなにも問題ありません。むしろ失敗を繰り返し、神経の繫がりをつくりながら、さらに新しい課題に挑戦していく楽しいトレーニングなので、楽しみながら、様々な能力に刺激を与えていけます。
子供の頃にしっかり「巧緻性」を伸ばすことが重要
子供のスポーツにおける、日本とアメリカ等の大きな違いってわかりますか?
いろいろなメディアでも取り上げられたことがあるので、知ってる方もいらっしゃるでしょう。日本は子供の頃から、野球なら野球とずっと同じスポーツをやり続けます。しかし、アメリカでは、春から夏までは野球、その後水泳、その後はサッカー、その後野球が始まるまではバスケットなど、さまざまなスポーツを行ったりします。確かに、野球しかやってないチームとアメリカ式のチームが試合をしたら、当然野球しかやってないチームの方が勝つでしょう。それは当然ですよね。
しかし、それは子供時代においての話です。将来的には、いろいろなスポーツで巧緻性を高めた子供の方が、野球しかやっていない子供よりも、レベルの高い動きに対応できやすいということです。小学時代はすごい実績があっても、将来は伸び悩むという事例が数多くあります。だからこそ、巧緻性をしっかり伸ばし、将来、順調に能力を伸ばせる土台作りが重要なのではないかと思います。
まとめ
子供の巧緻性を育む環境が整っていない現代において、意識的に巧緻性を高める環境をつくってあげることが大事です。特に幼児期から学童期においては、遊びや運動の中で様々な動きを行い、神経の繫がりをつくってあげることが重要でしょう。
スポーツの現場においても、偏った身体の動きだけでなく、様々な動きをトレーニングの中に取り入れることが、将来のパフォーマンスUPに繋がってくると思います。